The White Report 月間ウェブマガジン
The White Report 2014年 9月号 毎月20日更新
–目次–
澤田 育久 (写真家) 「ある時ある瞬間、そこに自分が存在したという感覚。記憶をたどって、どんな言葉や音楽を使ったとしてもそれを表すことはできない。」
映画”ラスベガスをやっつけろ”より
原作者のハンター・S・トンプソンはこのようにコミュニケーションの限界について言及しています。
写真も役割の一つに感覚や理解の共有(コミニュケーション)がありますが、ストーリーを伴う文章とは異なり、写真は指標性を伴いつつも指示性からは開放されているために単独では理解を提供することは出来ず、常に説明的補足を必要とします。それは多くの場合は言語的補足であり、言語とイメージは相互に干渉しつつそのどちらも優位性を主張することは出来ない様に思われます。
我々が目指しているものは規定されている意味の伝達や状況の説明ではない以上、私はこのある種の不完全性を利用し、それを操作することによって自身が見せたい世界を形作っていく作業をしている様に思います。写っている以上確かであると思われたものは常にフレーミングによって操作された構築されたイメージであり、現実に対しては何も担保していないということは、現実にある前提から自由であるということです。意味を解体し、コミュニケーションを放棄し、不完全なもの・不定形なものを積み重ねていくことによって自身の中に潜在的にある言語化され得ないイメージを顕在化し、それが現実に対し作用した時に初めて写真の優位性への道筋が切り開かれるように思います。
(参考文献:ジーン・フィッシャー著 〜マックイーンと危うい生のイメージとの対話〜)