The White Report 月間ウェブマガジン
The White Report 2014年 6月号 毎月20日更新
–目次–
澤田 育久 (写真家) 「だが、人は無限の機会があると思い込んでいる。」 映画”シェルタリング・スカイ”より
「人は自分の死を予知できず、人生を尽きせぬ泉だと思う。だが、物事はすべて数回起こるか起こらないかだ。自分の人生を左右したと思えるほど大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に思い浮かべるか?せいぜい4,5回思い出すくらいだ。あと何回満月を眺めるか?せいぜい20回だろう。だが、人は無限の機会があると思い込んでいる。」
映画シェルタリング・スカイの最後、ポール・ボウルズの言葉です。写真は対象がないと撮れませんが、万物は流転します。それまで長いこと目にしてきたつまらない物がある日突然撮影の対象になり、いつまでもそこにあると思われたそれを満を持して撮りに行くと別のつまらないものになっていて愕然とするということはよく有ります。
対象に依ってしまうという宿命的な脆弱さの上に我々写真家は常に立っています。しかし、その脆弱性自体も写真であり、重要なのは写された対象物ではなく、自身の中の衝動や妄想が対象物を通して表出してきた時に初めて写真が作品化されるのではないかと思います。対象物が失われてしまったのならば直ぐに別の対象物を探すという、ある種の無責任な姿勢が写真家にとっては必要なのだと思います。