ALTERNATIVE SPACE The White

Exhibition 展覧会情報

小川浩子「南十字星とアストロラーべ」

Room #202

小川浩子「南十字星とアストロラーべ」

2024年01月16日 〜2024年01月27日

13:00〜19:00(日曜・月曜休み)

Overview

The White では新年1月16日より、小川浩子個展「南十字星とアストロラーべ」を開催いたします。
タイトル中の南十字星は小川の姉がかつて暮らしていた八重山諸島から見える、88星座中で最も小さい星座からとられています。小川は2013年に亡くした姉をその島で見送り、自宅までの帰路を船や鉄道を使用し時間をかけて帰宅しました。それから10年を機に自宅から八重山諸島までの逆向きの旅を昨年に行い、最終の地で宿泊した宿の主人に夜明け前の数分だけ南十字星が見えることを教わります。南十字星を見ることは叶いませんでしたが、その後小川の中で指極星のような存在になっていきます。
また、その道中には日本人として避けることができない広島や長崎も含まれました。2022年の個展では新型ウイルスの影響を受け、予定を変更して広島を主題の1つとして作品を発表しましたが、今展でも小川のフィールドワークであるランニングを軸に、長崎を舞台にした作品を展示します。世界中が同時にパンデミックを経験し、エントリーしていたレースの中止が相次ぐ状況は小川を不安に陥れますが、国際情勢が混沌とし緊張が高まる一方で、このような主題を取り入れることは自然な流れだったのかもしれません。
その他継続して発表している「泪壷の涙」、毎年8月に発信する「世界中に点在する広島通りにサインを送る」などの作品で構成されます。この機会にぜひご高覧くださいますようお願いいたします。

*アストロラーべ:主に中世のイスラムやルネサンス期のヨーロッパなどで盛んに使われた天文観測器具。星座早見盤のルーツ

Statement

「・と⚪︎と0と◻︎」
何かに行き詰まる時、気分転換も兼ねて自宅近くの公園を走りに行くことがいつの間にか習慣になり、数十年が過ぎている。夜間に1周が2kmの公園を反時計回りに走れるだけ走る、それだけの対処法だが、身近な場所で資金もかからず、運動不足解消にも心身の平衡を保つ手段としても都合がよかった。ふとその行為は身体で地上に描くドローイングではないかと、トレーシングペーパーに鳥瞰で走行ルートを描きおこしていくと、歪んだ「0」が紙面に浮かびあがった。それに距離や時間などの記録も添えると、埋もれていった数字たちが自然に自身の運動能力を自覚させ、走ることへの分析や改善を意識させる。数年経過した2013年を起点としたのは、姉が亡くなった年の忘却を防ぐために。境界を越えて遠くへ行った姉への問いかけは、呼吸機能により強く負担をかけて走行していくことにも繋がっていった。 
静寂な夜の公園で季節を知らせる植物や虫たち、梟の鳴き声に不意打ちの流れ星。日ごとに「0」のドローイングは切り株のように積みあがり、せわしなく活動する夜行性のいきものたちの間を走りぬけることが制作への相乗効果ともなっていった。

魯迅の小説「阿 Q正伝」の中で、主人公の阿 Qが無実の罪で処刑される前に署名を促される場面がある。文字が書けず、代わりに丸を書くようにと指示を受けるのだが、筆を持ったことがない阿 Qは丸さえも上手く書けずに銃殺されてしまう。陰鬱な気持ちで阿 Qの描くいびつな丸を頭の中でなぞると、自宅にある井戸ではじめて呼び水をした時の体験とかさなった。一滴の雫が地底へ吸い込まれ一瞬で宙を駆けぬけ円環を描く感覚。淡々と救いのない描写で完結していく文面の中に、深い井戸の底にある、異界へ通ずる扉のようなものがあるように感じた。

Biography

埼玉県生まれ。古代ローマで副葬品などとして使用された「涙壷(lachrymatory)」から着想し発展させた作品に、フィールドワークであるランニングを取り入れ、世界各地のレースに参加しながら作品を展開、継続中。

主な個展
2017「分光法」 The White、東京
2018「分子時計」 The White、東京
2019「地形分析」 The White、東京
2022「夜がわたしに語ること」 The White、東京

主なグループ展
2007 「神戸ビエンナーレ」兵庫
2015, ’17「中国広州日本現代アート展」 53美術館、中国
2015 「Tsukuba International Artist in Residence」つくばアートセンター
2019 「before sunrise after dark」アズマテイプロジェクト、横浜
2022 「藤棚へ」アズマテイプロジェクト、横浜

パブリックコレクション
日本大学生産工学部、リボンシティレジデンス、東京ミッドタウン

Hiroko Ogawa

Born in Saitama Prefecture. Inspired by the “tear jars(lachrymatory)’’ used as burial goods in ancient Rome, incorporates her fieldwork such as running into artwork, and
continues to exhibit artworks while entering races around the world.

Selected solo exhibitions
2022 “What the night tells me” The White, Tokyo
2019 “Topoanalyse” The White, Tokyo
2018 “Molecular Clock” The White, Tokyo
2017 “Spectroscopy” The White, Tokyo

Selected group exhibitions
2022 “Heading to FUJIDANA” AzumateiProject, Yokohama
2019. “before sunrise after dark” AzumateiProject, Yokohama
2015, ’17 “China-Japan Contemporary Art Exhibition” 53 Art Museum, Guangzhou/ China
2015 “Tsukuba International Artist in Residence” Tsukuba Art Center
2007 “Kobe Biennale” Hyogo

Public collections
Nihon University College of Industrial Technology, Ribbon City Residence, Tokyo Midtown