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Exhibition 展覧会情報

タカザワ ケンジ「非写真家2.0 入れ子の部屋 Nested room: non-photographer part2」

タカザワ ケンジ「非写真家2.0 入れ子の部屋 Nested room: non-photographer part2」

2019年02月05日 〜2019年02月16日

13:00〜19:00 日・月曜 休み

Events

レクチャー
タイトル:「写真が〝作品〟になるとき:写真家以外の写真作品」
内容:写真の世界では、ときどき写真家が「発見」される。近年でいえばヴィヴィアン・マイヤーがいる。彼女は生涯に1度も写真を発表しないまま亡くなり、まったく無関係の人物の手で世界的に著名になった。しかし、そもそもモダニズム写真の父といわれるウジューヌ・アジェからして本人の意図とは別に芸術的評価を与えられているほどで、写真作品の本質に「発見される」という受動的な要素があるのではないか。写真の価値はどこにあり、誰が、どういう理由で判断してきたのか。職業的な写真家以外が撮った名作写真から、写真の価値基準について考えたいと思っています。

日時:2019年2月9日・16日(土)18:30~20:00
受講料:1,000円
定員:20名
要予約:mail@sawadaikuhisa.com

Statement

”非写真家の部屋”
 写真は感光する光があれば可能なかぎり「なんでも」写真にしてしまう。それがとても気に入っている。しかもデジタル写真の時代になると、その「なんでも」はより卑近な使い方になった。とりあえず撮っておく。後で見ないかもしれないが。
 私は2018年に2つの写真展を行った。
 どちらも「非写真家」というタイトルで。最初は名古屋。次に東京で巡回展という位置づけだった。しかし、普通の写真展の巡回とは少し違った。内容は同じだともいえるし、違うともいえたからだ。
 ここでは1つめをVer1.0、2つめはVer1.5としよう。ではその0.5の違いは何だったのか。
 Ver1.0では過去3度行った展示に使った写真を再構成をベースに新作を混ぜたものだった。内訳は、ある都市でバスの窓越しに撮影した写真(「CARDBOARD CITY」)と、金村修の作品の再撮影をもとに金村修論を加えてつくった写文集の複写(「Kanemura's people」)、写真集の複写中に生まれたエラー写真で構成した写真史(「偶然の写真史」)。加えて、電車の中からインターバル撮影を行った写真(「未視の街 Unseen city」)に、偶然の写真史の新作をいくつか。  Ver1.0はそれぞれ、私が現実に対するリアクションとして意志的にシャッターを切った写真(CARDBOARD CITY)、写真家の作品を読み解く資料として撮影した写真(Kanemura's people)、偶然生じたエラー写真を後から選んだもの(偶然の写真史)、風景を見ずにカメラが偶然撮影した写真だけを見て構成したシリーズ(未視の街 Unseen city)と言い換えられる。以上は制作順であり、能動的に撮影することから、カメラ任せで撮影された写真を選ぶことへと変化してきたことがわかる。起点となったCARDBOARD CITYでさえバスの中という限定された状況の中で、限られた視界の中、かろうじて瞬間を選ぶという撮影手法だったため、いわゆる「写真家」ではないやり方で、という意味でタイトルを「非写真家」と名付けた。私自身の作品制作に対する考え方を端的に言葉にしたのである。
 Ver1.5はVer1.0と内容はまったく同じ。だが、まったく違うともいえる。なぜならVer1.5ではVer1.0の展示を複写した写真を展示したからである。通常、巡回展は「作品」がそのまま移動して展示される。作品が「巡回」するのだ。しかし、「非写真家」の場合は、写っている内容はVer1.0そのものだが、Ver1.0で展示した写真を1カットも使っていない。よってこの2つの展示の写真は同じだとも、同じではないともいえる。
 私たちは生まれて間もないときから写真、映像を見続けてきた。二次元の映像を三次元のコピーだと理解し、意識しないま経験として脳にしまい込みさえする。記憶の中をさらってみれば、肉眼で見たのか写真や映像で見たのか判然としないイメージを多くため込んでいる。いま見ている夕日の美しさは、以前に見たことがあるような気がする。それは現実だったのか、写真や映像だったのか。

 今回展示する「非写真家2.0 入れ子の部屋」は「非写真家」の3度目の展示となる。3.0ではなく2.0としているのは、先述した通り、1と1.5では内容が同じだからである。では2.0では内容が変わるのだろうか? 手元にあるのはVer1.5の展示を機械的に複写した写真と、日々撮影しているライフログ的な写真や、仕事に必要な写真集や資料の複写、あるいは実験的な写真だけである。「非写真家2.0 入れ子の部屋」ではこれらの材料を使って展示を構成することになる。何を使うかはまだわからない。しかし、「非写真家」というタイトルが示す通り、写真家が食指を動かしそうにないやり方で、写真を見る側からの発想で組み立てるつもりではある。どんな展示になるのだろうか。

タカザワケンジ
2018/12/12

Biography

1968年前橋市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。写真評論、写真家インタビューを雑誌などに寄稿。写真集の編集、写真についての展示など、写真のアウトプットに対する実践も行っている。解説を寄稿した写真集に富谷昌子『津軽』(HAKKODA)、渡辺兼人『既視の街』(AG+ Gallery、東京綜合写真専門学校出版局)、澤田育久『closed circuit』(The White)、石田省三郎『Radiation Buscape』(IG Photo Gallery)、井上雄輔『Containers in Tokyo』(Case Publishing)、『美とかたち 岩宮武二の仕事』(光村推古書院)ほか。著書に『挑発する写真史』(金村修との共著、平凡社)。ヴァル・ウィリアムズ著『Study of PHOTO 名作が生まれるとき』(ビー・エヌ・エヌ新社)日本版監修。東京造形大学、東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツで非常勤講師を務めるほか、カロタイプで少人数のゼミを主宰。IG Photo Galleryディレクター。