Exhibition 展覧会情報
古橋 宏之「土の終わり- untitled fire」
2015年12月08日 〜2015年12月19日
13:00〜19:00 日・月曜 休み
Statement
上流の左岸で堤防を補強する工事が始まり、大量の石を使って一時的に川筋を反対側に蛇行させていた。河川敷で湧いて、川に注いでいた水は涸れてしまい、その跡には玉石が道のように連なっている。そこだけ筋状に草が生えていない。流れの緩い湧き水が玉石を運んできたとは考えにくかった。石径の両脇に生えている草の根元を掘れば、やはり玉石があるだろうか。低い場所に落ちた種は流されてしまい芽を出せなかったのだ、と思った。
カメラを三脚に載せて、大きなビニール袋で全体を包み込んだ。それからレンズの位置に穴を開けて、冠布をかけた。傘は三脚に直接取り付ける工夫がしてあった。機材の準備が終わると傘を開いて、体の正面に抱きかかえるようにして持ち運んだ。雨が傘にあたる音がした。風が吹いて、自分の体は雨に濡れているのだとわかった。足許に石の感触と、石と石が擦れ合う音がした。堰から落ちる水の低い音は、遠くから聞こえていた。全ては現実だった。そして、目で見えている、両側の耳より前のことが現実の大半だった。耳より後の反対側がどうなっているか、考えていなかった。
石に沿ってしばらく歩くと、比較的広い視野の中から特別な風景が現れた。自分を境にして、その前後左右からの見え方がまったく異なるという経験がある。自分の体とカメラの位置関係、目線の向きや目の高さに気をつけて、なるべくレンズが眼と同じ状態になるよう、繰り返し確認をした。同じになりようがなかった。僅かに立つ場所を変えても、あるいは僅かな時の間にも、空間は様々に変型する。そうして、フィルムには多くの類型が保存されていった。